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社会で活躍する力とは何か?
「いい大学に入るために勉強しなさい」と言われた経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。確かに、読み書き計算といった「認知能力」は、進学や就職などにおいて重要な役割を果たします。しかし、近年、注目されているのは「非認知能力」と呼ばれる力です。
非認知能力とは、感情のコントロール力や協調性、やり抜く力、自己肯定感など、学力テストや知能検査で数値化しにくい能力の総称です。OECD(経済協力開発機構)や文部科学省もこの非認知能力の重要性を指摘しており、これからの教育に欠かせない視点となっています。
本記事では、なぜ今「非認知能力」が求められているのか、子どもの非認知能力を育てるには、どんな関わりや環境が大切なのかについて、具体的に紹介します。
非認知能力とは?認知能力との違いを解説

非認知能力とは
非認知能力とは、感情や行動、社会性に関わる能力のことを指します。たとえば、以下のような力が含まれます。
- 自己抑制力(感情のコントロール)
- GRIT(やり抜く力)
- 自己肯定感・自尊心
- 協調性・共感性
- 忍耐力・意欲
- 楽観性・目標への情熱
これらは学力テストや知能検査で直接測ることが難しく、「見えない力」とも呼ばれます。
認知能力との違い
一方で、「認知能力」とは、学力テストなどで測れる能力のこと。たとえば語彙力、計算力、記憶力などがこれに該当します。
つまり、認知能力は「知識や論理的思考」に関する力、非認知能力は「人間性や感情的知性」に関わる力と言えるでしょう。両者は対立するものではなく、相互に作用し合う関係にあります。
なぜ今、非認知能力が注目されているのか?

時代の変化と非認知能力のニーズ
現代社会は、かつてないスピードで変化しています。AIや自動化の進展により、単純作業や知識ベースの仕事は機械に置き換わる時代です。そんな中で、人間にしかできない「感情の理解」「チームでの協力」「創造的な思考」が重要視されるようになりました。
非認知能力はまさに、こうした力の土台となるものです。
OECDの報告と学力との関係
OECDは2015年に「社会情動的スキル(Social and Emotional Skills)」に関するフレームワークを発表し、学力だけでは測れない能力の育成が、学業成績や将来の社会的成功にも影響することを示しました。
この報告では、非認知能力が高い子どもほど、将来の収入、健康、人間関係においても良好な結果を得やすいとされています。
日本の教育政策でも非認知能力が重視
日本でも、文部科学省が学習指導要領を改訂し、「主体的・対話的で深い学び」を教育の柱に据えるなど、非認知能力の育成を意識した教育改革が進んでいます。
これにより、授業の中にディスカッションやグループ活動、振り返りなどが積極的に取り入れられ、学力だけでなく“人間力”の育成が重視されるようになっています。
非認知能力が社会でどう役立つか?

自己肯定感とチャレンジ精神
非認知能力の一つである「自己肯定感」が高い人は、自分の価値を信じ、失敗を恐れずにチャレンジする傾向があります。これは、起業家やイノベーターに共通する特徴でもあります。
「失敗しても自分には価値がある」と思える力は、柔軟性やレジリエンス(心の回復力)にもつながります。
協調性と共感力で人間関係がスムーズに
非認知能力の中でも特に重要なのが、他者との関わりに関する力です。たとえば、チームで仕事をするときに必要なのが、共感力や協調性です。相手の立場を理解し、感情を読み取る力があれば、職場や学校でのトラブルを未然に防ぐことができます。
さらに、共感力が高い人は、対話や交渉においても信頼を築きやすく、結果的にキャリア形成においても有利に働きます。
感情コントロールがストレス耐性を高める
プレッシャーや困難に直面したとき、感情のコントロールができるかどうかで、状況の乗り越えやすさが変わります。非認知能力の高い人は、自分の気持ちを客観視し、冷静に対応できる傾向があります。
こうした力は、メンタルヘルスの維持にも直結し、長期的な就労継続や人間関係の安定にも寄与します。
子どもの非認知能力を育てるには?

家庭で育む日常の工夫
非認知能力の育成は、家庭の中での日常的な関わりから始まります。今回は子供の感情に寄り添う際に大切な2つの姿勢を、具体的にご紹介します。
子どもの感情に寄り添うために大切な2つの姿勢
1. ペーシングを意識する
子どもの感情に寄り添う際には、大人が一方的に言葉をかけすぎず、子どものペースに合わせる「ペーシング」が大切です。話す速さや声のトーンを子どもに合わせることで、安心感を与えることができます。
たとえば、子どもが無言でいるときに焦って言葉を急かしたり、「今怒っているんだね」と決めつけるような言葉をかけると、逆に心を閉ざしてしまうことがあります。子どもが沈黙している時間も、気持ちを整理している大切なプロセスとして、静かに待つ姿勢が大切です。
2. 質問・傾聴・承認を丁寧に行う
子どもの気持ちを理解するためには、「今どんな気持ち?」「どうしてそう思ったの?」といった問いかけで、自分の感情を自分の言葉で表現できるよう促すことが大切です。
そのうえで、子どもが話してくれた言葉をしっかり受け止め、「そうなんだ、悲しかったんだね」などとフィードバックすることで、共感されている実感を得やすくなります。大人の姿勢として大切なのは、評価やアドバイスではなく、まずは「聴くこと」「気持ちを認めること」に徹することです。
学校教育での取り組みとSEL
文部科学省では、2020年の学習指導要領改訂により、「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」を推進しています。これは、子どもたちの非認知能力を育てる教育方法としても注目されています。
また、「SEL(社会性と情動の学習)」という教育プログラムも広まりつつあり、米国ではすでに多くの学校で導入されています。
さらに、探究学習やPBL(課題解決型学習)を通じて、子どもたちが他者と協働しながら自ら課題に取り組む機会が増えたことも、非認知能力の育成につながっています。
まとめ:非認知能力は“これからの教育”の中心に

非認知能力とは、テストの点数では測れない「人としての力」です。社会が大きく変化する中で、認知能力と非認知能力のバランスを取ることが、将来の幸福や成功に直結する時代となっています。
非認知能力は「生まれつきの資質」だけではなく、日常の経験や関わりの中で育てることができる力です。子どもを一方的に評価するのではなく、成長の過程を見守る視点が大切です。
子どもたちが自分らしく生き、自信をもって社会と関わっていけるように。大人もまた、子どもの力を信じて、「見えない力」を伸ばす支援を続けていくことが求められています。