
子育てや教育の情報に触れる中で、『非認知能力』という言葉を頻繁に耳にしませんか?育児雑誌や教育ニュース、保護者同士の会話でも頻繁に登場し、「これからの時代は非認知能力が大切らしい」という認識は、多くの方に広まっています。
しかし、その一方で、「非認知能力とは何か」「学力とはどう違うのか」「なぜそこまで注目されているのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。
教育ソリューションプラットフォームを開発・提供するイー・ラーニング研究所が保護者を対象に行った調査では、「Q1非認知能力を知っている」と回答した58%のうち、「Q2非認知能力について理解している」と回答したのは27%にとどまりました。つまり、言葉の認知度は高まっている一方で、その意味や重要性についての理解はまだ十分に浸透していない現状がこの調査で明らかになりました。

本記事では、これからの教育の根幹をなす「非認知能力」について、その意味、学力との違い、そして非認知能力が今注目されている「社会的背景」まで、要点を押さえて解説します。
INDEX
「非認知能力」とは?~学力テストでは測れない「生きる力」~

「非認知能力」を理解するために、まず馴染み深い「認知能力」と比較してみましょう。
「認知能力」と「非認知能力」の主な違い
能力の種類 | 認知能力 (Cognitive Skills) | 非認知能力 (Non-Cognitive Skills) |
---|---|---|
特徴 | 「学力」や「IQ」など、学力テストで測定可能な力 | 「意欲」や「社会性」など、学力テストで測りにくい内面的な力 |
具体例 | ・読み書き、計算 ・知識の記憶、暗記 ・論理的思考 | ・やり抜く力(グリット) ・自制心、感情コントロール ・協調性、コミュニケーション能力 ・自己肯定感、自信 ・回復力(レジリエンス) ・創造性、探求心 |
性質 | ・数値化しやすい(点数、偏差値) ・「頭の良さ」の指標となりやすい | ・数値化しにくい ・あらゆる行動の源泉 |
認知能力とは、学校のテストの点数やIQ(知能指数)といった、客観的な数値で示せる能力です。一般的に「頭が良い」と言われる際、この認知能力の高さを指すことが多くあります。
対して非認知能力は、学力テストでは測定できない個人の内面的な力や社会性に関する能力の総称です。「認知テストでは測れない」ことから、この名で呼ばれています。
日常の場面における非認知能力には、以下のようなものがあります。
- うまくいかなくても諦めず、何度も試行錯誤する粘り強さ(やり抜く力)
- 友達とトラブルになりそうな時、感情的にならず「順番に」と提案できる冷静さ(自制心・協調性)
- 失敗しても気持ちを切り替え、最後までやり遂げようとする精神力(回復力・忍耐力)
- 「自分ならできる」と信じ、新しいことに積極的に挑戦する意欲(自己肯定感・自尊心)
これらは学力テストの点数では測れませんが、子どもが豊かな人生を送る上での「生きる力」として不可欠な能力です。
非認知能力は、学力を伸ばす「土台」
ここで重要なのは、「認知能力」と「非認知能力」は対立するものではなく、むしろ非認知能力が認知能力を伸ばすための「土台」の役割を果たすという点です。
これは家づくりに似ています。どんなに立派な資材(知識=認知能力)があっても、基礎(非認知能力)が不安定では、頑丈な家は建ちません。

例えば、豊富な知識(認知能力)を持っていても、「どうせ無理だ」という低い自己肯定感では行動に移せません。難問を解く力(認知能力)があっても、少しのつまずきで諦める「やり抜く力」がなければ、能力を発揮しきれません。
学習意欲、粘り強さ、協調性といった非認知能力があってこそ、学力(認知能力)は伸びていきます。非認知能力は、子どもの学びと成長を根底から支える「人間力の土台」なのです。
「非認知能力」が重要視される社会的背景

非認知能力が現代で注目を集めるようになったのは、社会の大きな変化に加え、こうした力の意義を示唆する研究成果が少しずつ蓄積されてきたことも関係しています。
1. AI時代とグローバル化――予測困難な社会を生き抜くために
現代は「VUCA(ブーカ)」、すなわち変動性・不確実性・複雑性・曖昧性が高く、未来の予測が極めて困難な時代と呼ばれています。この時代を象徴するのが、AI(人工知能)の進化とグローバル化です。
AIの台頭で、知識の記憶やルールに沿った正確な作業は、機械に代替されつつあります。これは、従来の教育で重視された認知能力の一部が、AIに置き換えられる可能性を示しています。
では、これからの人間に求められる力とは何でしょうか。それはAIが苦手とする領域の能力、すなわち非認知能力です。
- 0から1を生み出す「創造性」
- 前例のない課題を解決する「課題解決能力」
- 多様な人々と協力し価値を共創する「コミュニケーション能力」
- 変化に対応し、学び続ける「柔軟性」や「やり抜く力」
知識をどう使い、他者とどう関わり、社会にどう貢献するか。その根幹にある非認知能力こそが、AIと共存する未来を生き抜くための羅針盤となります。
2.世界的研究から見えてくる「非認知能力」の可能性
非認知能力の重要性は、単なる精神論ではなく、長年にわたる教育研究からも注目されるようになってきました。たとえば、1960年代に米国で実施された「ペリー就学前プロジェクト」では、経済的に恵まれない幼児たちに対し、非認知能力の育成に力点を置いた質の高い教育プログラムが行われました。
その後、40歳時点での追跡調査によれば、この教育を受けたグループは、受けなかったグループに比べて、所得の水準や持ち家率が高く、逮捕歴も少ないといった傾向が見られました。
興味深いのは、こうした違いがIQ(いわゆる認知能力)によるものとは言い切れなかった点です。実際、8歳の時点で両グループのIQに明確な差はほとんどなくなっていました。幼児期に育まれた自発性や社会性といった非認知的な側面が、その後の人生においてさまざまな好影響を及ぼしていた可能性があると考えられています。
このような知見を通じて、非認知能力は、子どもたちの長期的な成長や幸福に関わる重要な要素として、多くの教育関係者から注目されています。
まとめ:子どもの非認知能力に目を向け、未来の土台を育む

本記事では、「非認知能力」の意味と、それが現代で重要視される理由を解説しました。
- 認知能力は学力テストで測れる「学力」、非認知能力は測定しにくいが生きていく上で非常に重要な力(自己肯定感や人間関係力、主体性、感情のコントロールなど)
- 最も重要なのは、非認知能力という「土台」があってこそ、認知能力が伸びるという関係性
AIの進化やグローバル化が進む予測困難な時代を生き抜くには、変化に柔軟に対応し、多様な人々と協働して新しい価値を創造する力が不可欠です。それはまさに、非認知能力そのものです。
お子さまの成長を学力テストの点数といった認知能力だけで判断するのではなく、その内面で育っている非認知能力にも、ぜひ注目してください。
日々の生活の中での「失敗してもまた挑戦する姿」や「友達を思いやる行動」に気づき、認めること。こうした経験が、子どもが前向きに、自分らしく成長していくための「心の土台」となっていきます。
【参考文献】
- 「幼児教育の経済学」2015/6/19 ジェームズ・J・ヘックマン (著), 古草 秀子 (翻訳)
- YouTube:NewsPicks 「年収を左右する非認知能力」学歴不要の子育てとは?社会を生き抜く最重要スキル「非認知能力」の重要性を徹底議論【成田修造/宮村優子/内田伸子/高濱正伸/吉田智雄】EduPassion
https://www.youtube.com/watch?v=ijjf-_FEWXU