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はじめに|“教えない授業”が広がる理由
近年、学校現場や塾、民間教育において注目されている「探究学習」。これまでの「答えを教える授業」から、「自ら問いを立て、調べ、考える授業」へと教育のあり方が大きく変わりつつあります。
探究学習は、2020年に全面実施された新学習指導要領において「主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)」の中心的な学習方法として明記され、2020年以降もその重要性はますます高まっています。
では、そもそも「探究学習」とは何か?どのような力を育てるのか?本記事では、探究学習の基礎知識から非認知能力との関係まで、保護者や教育関係者が知っておきたいポイントをわかりやすく解説します。
探究学習とは?|文科省が示す基本的な定義

文部科学省によれば、「探究学習(総合的な学習の時間)」とは以下のように定義されています。
生徒が自ら課題を設定し、情報を収集・整理・分析し、まとめ・表現する一連の活動を通して、自らの生き方を考えていく学習
【※文部科学省「総合的な学習の時間の充実に向けて」】
つまり探究学習とは、知識の習得だけでなく、子ども自身が「自ら問いを立て、自ら学びに向かう」プロセスを重視し、社会で生きるために必要な力の土台を育てる教育です。
探究学習の特徴|従来の授業との違いは?

探究学習は、従来の教育と異なり、「正解がない問い」に挑むという特徴があります。
具体的には以下のような点が従来の授業と異なります。
従来の授業 | 探究学習 |
教師が課題を与える | 生徒自身が問いを立てる |
正解を覚える | 答えのない問いに挑む |
知識の詰め込み型 | 思考・対話・表現を重視 |
個人で学ぶ | 協働・対話による学び |
こうしたアプローチにより、学力(認知能力)だけではなく、「粘り強さ」「自己肯定感」「協働力」などの非認知能力を伸ばすことができるのです。
探究学習の特徴|学びのプロセス

探究学習は、自分自身の関心や疑問を出発点として学習を進めるスタイルです。
次に、探究学習の4つのプロセスを解説します。
1.課題の設定
「なぜ?」「どうして?」という素朴な疑問から出発し、自らテーマや問題を設定します。この力は、将来の問題発見力や自発的行動の基盤となる重要な能力です。
2.情報の収集
本やインターネット、観察、インタビューなどで情報を集めます。多角的に調べることで、テーマへの理解が深まります。
3.整理・分析
集めた情報を分かりやすく整理し、関係や傾向を考えます。表やグラフにまとめる力、自分の考えを導き出す力が育ちます。
4.まとめ・表現
学んだことや自分の考えを、発表や資料にまとめて伝えます。相手にわかりやすく伝えることで、学びが定着します。
こうしたプロセスを通じて、単なる「知識の習得」だけでなく、「どのように学ぶか」「どう考えて行動するか」といった力が育まれていきます。
なぜ探究学習が必要とされているのか?|非認知能力との関係
少子高齢化やAI社会の到来など、私たちを取り巻く社会は急速に変化しています。そうした時代のなかで、正解のない問いに対して「考え抜く力」や「他者と協力する力」、そして「失敗しても立ち直る力」など、非認知能力が求められるようになってきました。
非認知能力は、通常のペーパーテストでは測定されにくいものの、実社会での活躍や幸福感に強く結びつく力です。
探究学習は、学力(認知能力)だけでなく、これからの社会で生き抜くための「非認知能力」も同時に育てる教育手法として注目されているのです。
以下は非認知能力と探究学習の関係を整理した一例です。
ステップ | 関連する主な非認知能力 |
課題の設定 | 主体性、探究心、自己肯定感 |
情報の収集 | 行動力、好奇心、自己管理能力 |
整理・分析 | 批判的思考力、自己調整力、問題解決力 |
まとめ・表現 | 表現力、協働力、コミュニケーション力 |
探究学習で育まれる力|学力を支える“土台”

たとえば、横浜市教育委員会による2023年の調査では、以下のような結果が得られています。
- 意味理解型の学習方略を用いている児童ほど学力が高い
- 授業が「楽しい」と感じる児童ほど学力が伸びる
- 粘り強さ(GRIT)や協働力が高い児童は、成績も安定して高い傾向
このように、「非認知能力」が高い子どもほど、結果的に「認知能力」=学力も伸びやすいという構造があるのです。
日常生活でも探究心は育てられる
学校や教育現場だけではなく、家庭でも、次のような関わりで子どもの探究心を育むことができます。
- 日常の「なぜ?」に耳を傾ける
- 答えを急がず「一緒に考える」姿勢を持つ
- 好奇心を深堀りできる環境(図鑑、実験、観察など)を整える
- 自由な発想や失敗を否定せず受け止める
特に幼児期~小学校中学年の時期は、探究心の“種まき”に最適です。
まとめ|探究学習が“未来を生き抜く力”を育てる

これからの時代、「知識を覚える力」だけでなく、「自ら問い、考え、協働し、粘り強くやり抜く力」が問われます。探究学習は、まさにその力を育むための実践的な学びの形です。
学力(認知能力)と非認知能力は相互に関連し、どちらも未来を生きる上で欠かせません。学校や塾、家庭で探究的な学びを支えることで、子どもたちの可能性はさらに広がっていくでしょう。
参考・出典
- 文部科学省「総合的な学習の時間の充実に向けて」
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/sougou/main14_a2.htm- 文部科学省「学習指導要領 解説」
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2019/03/18/1387018_012.pdf- 横浜市教育委員会「認知・非認知能力調査研究報告書概要(2023年)」
- 一般財団法人 日本生涯学習総合研究所『非認知能力の概念に関する考察(2022年)』
- 教育医学『幼児の認知能力と非認知特性の関連(2021年)』