
近年、教育界で大きな注目を浴びているキーワードの一つが 「GRIT(グリット)=やり抜く力」です。心理学者アンジェラ・ダックワース氏によって提唱されたこの概念は、「長期的な目標に向かって、粘り強く情熱を持ち続ける力」を意味し、学力やIQと並んで人生の成功を大きく左右すると言われています。
しかし、「GRITは持って生まれた才能ではないか」「どうやって子どもに教えるのか」といった疑問を持つ方も少なくありません。本記事では、小学校でGRITを育むための方法や、GRITに関する疑問を分かりやすく解説します。

INDEX
小学校でGRITを育むための4つのポイント

GRIT(やり抜く力)は単なる精神論ではなく、科学的なアプローチで育むことができるとされています。小学校の授業でGRITを育てるためには、以下の4つのポイントを意識することが重要です。
1. 成長型マインドセットを育む
「自分はできる」「努力すれば成長できる」という考え方(成長型マインドセット)は、GRITの土台となります。これに対し、「才能は生まれつき決まっている」という考え方(固定型マインドセット)では、困難に直面した際に「どうせ自分には無理だ」と諦めてしまいがちです。
授業では、子どもたちの努力やプロセスを具体的に褒めることが大切です。「頭がいいね」ではなく、「難しい問題に挑戦したね」「何度もやり直して頑張ったね」と声をかけることで、努力することの価値を伝えられます。また、失敗は悪いことではなく、成長するためのステップであることを教えることも重要です。
2. 目的・目標を明確にする
「何のために学ぶのか」という目的意識を持つことは、GRITを支える原動力になります。ただ単に課題をこなすのではなく、その先に何があるのかを子どもたち自身が理解することで、内発的な動機づけが生まれます。
例えば、「この単元を学ぶと、こんなことができるようになるよ」と、学習内容と現実世界とのつながりを示すことが有効です。長期的な目標と、それを達成するための短期的な目標を立てる練習をすることも、やり抜く力を養うことにつながります。
3. スモールステップで成功体験を積む
最初から高い目標を掲げすぎると、挫折しやすくなります。GRITを育むためには、小さな目標を立て、それを一つずつクリアしていく成功体験を積み重ねることが重要です。
授業では、難易度を段階的に設定した課題を用意したり、個々のレベルに合わせた課題を提供したりすることで、すべての子どもが「できた!」という喜びを味わえる機会を増やせます。成功体験は自信につながり、さらに難しい課題に挑戦しようという意欲を掻き立てます。
4. 適切なフィードバックと自己評価の機会を与える
子どもたちが自分の成長を客観的に認識できるよう、具体的なフィードバックを与えることが大切です。どこが良かったのか、どこを改善すればさらに良くなるのかを明確に伝えることで、次への行動につながります。
また、子どもたち自身が自分の学習を振り返り、評価する機会を設けることも重要です。例えば、ポートフォリオを作成したり、自己評価シートを使ったりすることで、自分がどれだけ成長したかを可視化できます。これにより、内省する力が養われ、GRITの要素である「再起力」が高まります。
GRIT育成の効果と課題

学力への影響
研究によれば、忍耐力やGRITは学力テストの結果にもプラスの影響を及ぼすことが示されています。小学校期に粘り強さを育てることは、後の学習基盤を強固にする可能性があります。
課題と留意点
一方で、GRITを強調しすぎると「我慢の美徳」に偏り、子どもを過度に追い込むリスクもあります。大切なのは「好きだから続けたい」「できたら嬉しい」という内発的動機づけと結びつけることです。教師や保護者は、そのバランスを意識する必要があります。
GRITに関するQ&A

Q1. GRITは生まれつきのものですか?
A. いいえ、GRITは生まれつきの才能ではなく、後天的に育むことができる力です。
これは、心理学の研究でも明らかになっています。子どもの頃からの適切な働きかけや、失敗を恐れずに挑戦できる環境があれば、誰でもGRITを伸ばすことが可能です。
Q2. 失敗が多い子はGRITが育たないのでは?
A. むしろ失敗経験こそがGRITを育てます。
重要なのは失敗をどう受け止めるか。教師や保護者が「失敗は次へのステップ」と伝え、再挑戦を促すことが、やり抜く力を強めます。
Q3. GRITはテストの点数とは関係ありますか?
A. 直接的な相関は小さいですが、長期的には影響します。
短期的なテスト成績よりも、長期的な学習習慣や探究心を支える力がGRITです。粘り強さが学力の基盤となる認知能力を支えることも報告されています。
Q4. GRITは非認知能力と関係ありますか?
A. はい、GRIT(やり抜く力)は非認知能力の一つとして位置づけられます。
非認知能力とは、知識やIQのように数値化しやすい「認知能力」とは異なり、粘り強さ・自制心・協働力・自己肯定感など、学力以外の社会情動的スキルを指します。
GRITは忍耐力や自己管理力と深く結びついており、非認知能力の代表例といえます。
Q5. GRITを育てるために、授業で意識できる工夫は?
A. 小さな成功体験を積ませることです。
「昨日よりできた」「工夫したらうまくいった」という達成感を繰り返すことで、子どもはやり抜くことの価値を学びます。
まとめ|授業から広がる「やり抜く力」の可能性

GRIT(やり抜く力)は「生まれ持った才能」ではなく、授業や日常生活を通じて育てられる力です。
成長型マインドセットを養い、小さな成功体験を積み、目的を明確にし、適切な振り返りを行うことで、子どもたちはGRITを身につけることができます。
学力だけでなく人生を支える基盤となる非認知能力として、学校や家庭でGRITを育み、子どもたちの可能性を広げていきましょう。
参考文献
- アンジェラ・ダックワース(2016)『やり抜く力 GRIT』ダイヤモンド社
- 一般財団法人 日本生涯学習総合研究所『「非認知能力」の概念に関する考察<集約版>』(2022年)
- 杉浦ひなのほか『幼児の認知能力と非認知特性の関連』(2021年)
- 佐藤 美穂ほか『小学校において GRIT を高める実践とその可能性の展望』(2025年)