
近年、子どもの成功や幸福に深く関わる力として、「非認知能力」が注目を集めています。学力テストで数値化できる能力(認知能力)とは異なり、意欲、協調性、忍耐力、コミュニケーション能力、自己肯定感、問題解決能力など、心の働きや社会性に関わる幅広いスキルを指します。
この非認知能力は、幼児期から学童期にかけての経験、特に「遊び」を通して大きく育まれることが、多くの研究で明らかになっています。特別な教材や高価な習い事がなくても、日々の家庭での遊びの工夫次第で、子どもたちの未来の可能性を大きく広げることができます。
本記事では、「非認知能力」とは何かを再確認した上で、家庭で今日からすぐに実践できる、非認知能力を効果的に鍛える遊びのアイデアを具体的な関わり方とともに詳しくご紹介します。
INDEX
非認知能力とは何か?遊びと非認知能力の関係
非認知能力とは?
非認知能力とは、IQや学力テストの点数では測れない、「生きる力」そのものに関わる能力です。具体的には自己肯定感や人間関係力、主体性、感情のコントロールなどを指します。
ノーベル経済学賞を受賞したジェームズ・ヘックマン教授の研究などにより、「非認知能力の高さが、学歴、所得、雇用、健康、幸福度など、人生の様々な側面に影響を与える」ことが科学的に示され、世界的に注目されています。
非認知能力について詳しくは下記のページをご覧ください。
遊びが非認知能力を育む理由
子どもの「遊び」は、単なる時間つぶしや気晴らしではありません。遊びは、子どもにとって最も自然な「学びの場」です。
遊びの中では、子どもたちは以下のような経験を積み重ねます。
- 自主性の発揮: 「何をしたいか」「どう遊ぶか」を自分で決め、遊びを進める。
- 試行錯誤の経験: 「こうしたらどうなるだろう?」と試す。失敗しても「次はこうしてみよう」と考える。
- 感情の表現と調整: 遊びに夢中になる喜び、友達との意見の衝突、うまくいかない悔しさなど、様々な感情を体験し、表現し、コントロールする術を学ぶ。
- 協調性の養成: 友達や親とルールを決めたり、役割を分担したりしながら、他者の存在を意識して関わる。
これらの経験こそが、非認知能力を育むための土台となります。
【家庭で実践!】非認知能力を鍛える遊びのアイデア

ここでは、特別な道具なしで、家庭で今日からすぐに取り組める遊びのアイデアと、親の具体的な関わり方を解説します。
1. 想像力・創造力を伸ばす「ごっこ遊び」
ごっこ遊びは、非認知能力の宝庫です。
実践アイデア:おままごとやお店屋さんごっこ
おままごとやお店屋さんごっこは、想像力・共感力・コミュニケーション力・問題解決力を育てる遊びです。親は子どもの設定を受け入れ、少し難しい注文をして考える力を引き出し、役を交代して想像力を刺激しましょう。ごっこ遊びを通じて、子どもは社会性や考える力を自然に身につけていきます。
実践アイデア:段ボールや布を使った「秘密基地づくり」
段ボールや布で作る「秘密基地づくり」は、計画性・創造性・忍耐力・協調性を育てる遊びです。親は口出しせず見守り、必要な材料をさりげなく提案し、崩れても「どうしたら崩れないかな?」と一緒に考えましょう。工夫する力と、失敗を恐れず挑戦する心が自然と育まれます。
2. 意欲・忍耐力を高める「ものづくり・工作」
指先を使うものづくりや工作は、集中力と、一つのことをやり遂げる力を育みます。
実践アイデア:粘土やブロック、身近な材料での制作
粘土やブロックなどの制作遊びは、集中力・忍耐力・創造性・自己肯定感を育てます。親は完璧さを求めず、「すごいね、これは何を作ったの?」と興味を示し、努力の過程を褒めましょう。途中で飽きても続けられる環境を整えることで、目標に向かう力と達成感が育まれます。
3. 好奇心・探究心を刺激する「外遊び・自然体験」
自然の中には、五感を刺激し、子どもの探究心をくすぐる要素が満ち溢れています。
実践アイデア:公園や散歩での「宝物探し」
公園や散歩での「宝物探し」は、好奇心・探究心・観察力・五感の発達を促す遊びです。「赤い葉っぱを3枚」などテーマを決めて探しながら、親は子どもの「なぜ?」を大切にし、一緒に考える時間を持ちましょう。五感で感じたことを言葉にすることで、子どもの感性と集中力が育ちます。
実践アイデア:水遊び・泥遊び
水遊びや泥遊びは、思考力・応用力・想像力・問題解決力を育てる遊びです。汚れてもよい環境を整え、自由に挑戦させましょう。「どうしたらもっと遠くに流せるかな?」などの声かけで工夫を促し、「気持ちいいね!」と共感することで、創造性と主体性が伸びます。
4. 共感力・コミュニケーション能力を養う「読み聞かせ」
読み聞かせは、言語能力だけでなく、非認知能力を育む上でも極めて重要です。
実践アイデア:絵本の読み聞かせ
絵本の読み聞かせは、共感力・想像力・語彙力・集中力を育てる時間です。親が感情豊かに読むことで、子どもは登場人物の気持ちを追体験し、共感力を養います。読み終わった後に感想を話し合い、本を自分で選ばせることで、思考力や自主性も伸ばせます。
非認知能力を伸ばすために親が心がける「3つの環境づくり」

非認知能力は、「大人の関わり方」という環境によって、伸び方が大きく左右されます。
1. 「自己肯定感」を育む応答的な関わり
最も重要なのは、子どもが発する興味や行動に対し、大人が応答する(リアクションする)ことです。
- 「褒める」の質を高める: 「すごいね」「上手だね」だけでなく、「一生懸命最後までやり遂げたのがすごいね」「自分で考えて工夫したんだね」など、「能力(結果)」ではなく、「努力やプロセス」に焦点を当てて具体的に褒めましょう。
- 子どもの意見を尊重する: 子どもが「こうしたい」と言った時、それが危険なことでない限り、まずは「いいね!やってみよう」と受け止める姿勢が、自律性を育みます。
2. 「失敗しても大丈夫」な心理的安全性
失敗は、最高の学びの機会です。「失敗=悪いこと」という認識があると、子どもはチャレンジを恐れるようになります。
- 「失敗」をポジティブに捉える: 子どもが失敗したり、うまくいかずに泣いたりした時、「どうして失敗したと思う?」「どうすれば次は成功するかな?」と、一緒に原因と対策を考える機会にしましょう。
- 親も失敗を見せる: 親が家事などで失敗した時に、「あ、間違えちゃった。でも、こうしたら直せるね」と、リカバリーする様子をさりげなく見せることで、子どもは失敗を恐れない姿勢を学びます。
3. 「自分で選ぶ」機会を与える
非認知能力の核となる自律性(自分で考え、判断し、行動する力)を育むには、日々の生活の中で「自分で選ぶ」経験を増やすことが大切です。
- 小さな選択肢を与える: 「今日はどの服を着る?」「公園と図書館、どっちに行く?」「おやつはどっちがいい?」など、日常の些細なことから選択させます。
- 「なぜそれを選んだの?」と聞く: 選択させた後に理由を聞くことで、自分の判断を言語化する力(メタ認知能力)が養われます。
まとめ:非認知能力は「遊び」を通じて花開く

非認知能力は、子どもが社会に出てから直面する予測不能な課題を乗り越え、自分らしく幸せに生きるための土台です。
特別な教育プログラムは必要ありません。今日から家庭で実践できる「ごっこ遊び」「ものづくり」「外遊び」「読み聞かせ」といった、ごく普通の遊びの中に、非認知能力を鍛えるヒントは隠されています。
大切なのは、子どもが「夢中になって遊ぶ」こと、そして親がその夢中な姿に「応答し、共感し、見守る」ことです。親子の楽しい関わり合いの中で、子どもたちの非認知能力という「生きる力」は確実に育まれていきます。
参考文献
- ジェームズ・J・ヘックマン(2015) 『幼児教育の経済学』東洋経済新報社
- 中山芳一(2020)『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』東京書籍
- 杉浦ひなのほか(2021年)「幼児の認知能力と非認知特性の関連」



