
予測不能で変化の激しい現代社会において、子どもたちがたくましく生き抜くために必要な力として、今、レジリエンス(Resilience)が教育現場や子育てにおいて大きな注目を集めています。
このレジリエンスこそ、学力やIQといった数値で測れる能力とは異なる、非認知能力の重要な柱の一つです。本記事では、レジリエンスの基本的な定義から、教育の場でなぜ重視されるのか、そして家庭や学校で実践できる具体的な育成方法について詳しく解説します。
INDEX
レジリエンスとは何か?定義と教育における重要性

「心の弾力性・復元力」としてのレジリエンス
レジリエンス(Resilience)は、元々、物理学の分野で「弾力性」や「復元力」を意味する言葉として使われていました。心理学の分野では、これを人間の心に当てはめ、「困難、失敗、強いストレスといった逆境に直面した際に、それに適応し、精神的に落ち込んだ状態から早期に立ち直る力」「心の弾力性やしなやかさ」を指します。
レジリエンスが高い人は、逆境を乗り越えるだけでなく、その経験を糧にしてさらに成長を遂げることがあります。これは、ただ耐え忍ぶ「心の強さ」とは異なり、状況に応じてしなやかに対応し、回復する「しなやかさ」を兼ね備えた力だと言えるでしょう。
非認知能力の中核をなすレジリエンス
レジリエンスが教育現場で重要視される背景には、非認知能力への注目度の高まりがあります。非認知能力とは、自己肯定感、協調性、忍耐力、そしてレジリエンスなど、目には見えない心の力を指します。
レジリエンスは、その中でも「逆境を乗り越え、人生を前向きに切り開くための土台となる力」として、非認知能力の中核をなすものと位置づけられています。変化の激しい現代において、子どもたちが直面する挫折やトラブル、予測不能な事態を乗り越え、ウェルビーイング(心身ともに満たされた状態)を保ち、自律的に人生を歩むために不可欠な資質です。
レジリエンスを構成する主要な要素(5つの柱)

レジリエンスは単一の能力ではなく、複数の心理的要素が組み合わさって成り立っています。主に以下の5つの要素がレジリエンスの主要な構成要素として注目されています。
- 自己効力感: 「自分にはできる」「やれば成功する」と信じる力。困難な状況でも前向きに行動し、立ち直る意欲を保ちます。
- 楽観性: 物事の明るい側面に目を向け、希望を失わない姿勢。ネガティブな出来事を限定的なものとして捉え、「なんとかなる」という前向きな見通しを持つ力です。
- 感情コントロール: 逆境に直面した際の強いネガティブな感情を適切に認識し、調整する力。冷静に状況を判断し、適切な行動を選択できるようになります。
- 問題解決スキル: 問題や困難を克服するために、具体的な解決策を考え、実行に移す能力。状況を分析し、段階的に対処するプロセスを含みます。
- 社会的支援: 他者との良好な関係を築き、助けを求めることができる力。家族、友人、教師といった外部のサポートを効果的に活用できる能力です。
家庭と学校で実践!レジリエンスを高める具体的な方法
レジリエンスは、教育や経験を通じて誰もが獲得し、強化できる能力です。学校だけでなく、家庭での関わり方も非常に重要となります。
【家庭での実践】子どもの「心の安全基地」になる関わり

家庭は、子どもが失敗を恐れずに挑戦し、立ち直るための「心の安全基地」であるべきです。
- 悩みの受容と傾聴: 子どもが相談してきたとき、まずは「話してくれてありがとう」「大変だったね」と、感情を否定せずに受け止めます。安易に解決策を提示せず、気持ちに寄り添う姿勢が、子どもに安心感を与え、社会的支援の力を高めます。
- 努力とプロセスに焦点を当てたフィードバック: 結果だけでなく、努力やプロセス(過程)を具体的に褒めます。これにより、子どもは自己効力感を高め、「失敗しても、また頑張ればいい」という楽観性を育めます。
- 自律的な挑戦を促す: 子ども自身が「挑戦したい」と思う活動を尊重し、見守ります。自分で意思決定し、自力で小さな困難を克服する成功体験を意識的に与えることが重要です。
【学校での実践】レジリエンスを鍛える教育プログラム

学校では、計画的なプログラムを通じてレジリエンスを育みます。
- 失敗やトラブルを学びの機会に変える指導: けんかやトラブルを単なる問題行動として終わらせず、感情コントロールや問題解決スキルを学ぶ機会とします。トラブルの状況を客観的に理解し、相手の気持ちを想像し、子どもたち自身で解決策を考えさせるプロセスが有効です。
- 自己理解を深める強みの発見ワーク: 自分の強みや良い所に気付く活動は、自己肯定感を高めます。クラスメイト同士で、お互いの良い所や強みを伝え合うグループワークを実施するなど、「自分らしさ」を言語化する活動を促します。
Q&A:レジリエンス教育に関するよくある質問

Q1. レジリエンスは生まれつき決まっている能力ですか?
A. いいえ、レジリエンスは後天的に育むことができる能力です。
レジリエンスには生まれ持った気質的な要因も影響しますが、問題解決志向、自己理解、他者心理の理解といった多くの要素は、教育や経験を通じて獲得できる「獲得的要因」だと考えられています。適切な関わりとトレーニングによって、子どものレジリエンスは年齢に関わらず向上させることが可能です。
Q2. 失敗をさせない方が、自信がついてレジリエンスが高まるのではないでしょうか?
A. 失敗を完全に避けるのではなく、「失敗しても大丈夫」という経験を積むことが重要です。真のレジリエンスは、「失敗しても、そこから立ち直り、学びを得られた」という経験を通して育まれます。親や教師は、失敗した結果を責めるのではなく、失敗からどう学び、次へ活かすかを一緒に考える姿勢を見せることが大切です。挑戦する意欲を尊重し、「失敗は成長の機会である」というメッセージを伝えましょう。
Q3. レジリエンス教育は、いつから始めるのが効果的ですか?
A. 幼少期から始めるのが最も効果的ですが、何歳から始めても遅すぎることはありません。レジリエンスの土台となる自己肯定感や感情コントロールの基礎は、特に幼少期に形成されます。しかし、レジリエンスの構成要素は生涯を通じて強化できるため、小学生、中学生、高校生、そして大人になってからも、その年代に合わせたプログラムやトレーニングを行うことで、十分な効果が期待できます。
まとめ:レジリエンスは未来を切り拓く力
レジリエンスとは、逆境に負けず立ち直る「心の弾力性・しなやかさ」であり、子どもたちが現代社会をたくましく生き抜くために不可欠な非認知能力です。
自己効力感、楽観性、感情コントロール、問題解決スキル、社会的支援という5つの主要な要素を、家庭と学校が連携して育成していくことが求められます。レジリエンスを育むことは、子どもたちのウェルビーイングを高め、自律的な人生を歩むための土台を築く、未来への最も重要な投資だと言えるでしょう。
参考文献
- ジェームズ・J・ヘックマン(2015) 『幼児教育の経済学』東洋経済新報社
- 中山芳一(2020)『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』東京書籍
- 広島県立教育センター(2017年)「小学校におけるレジリエンスを育成する指導の在り方― 1年間を通した学習プログラムの作成・実施を通して ―」
- 一般社団法人 日本ポジティブ教育協会「生きる力を育てるレジリエンス教育〜個人とコミュニティーのレジリエンスから国家レジリエンスへ〜」



