
子どもの能力を伸ばすために、「ほめること」が大切だと多くの親御さんや教育関係者は理解しています。しかし、具体的にどのようにほめれば、学力だけでなく、将来の成功に不可欠な非認知能力(グリット、自己肯定感、協調性など)を効果的に伸ばせるのでしょうか。
「すごいね!満点だ!」と結果だけをほめる方法では、子どもは失敗を恐れ、難しい課題に挑戦しなくなる可能性があります。本記事では、非認知能力を最大限に引き出す、「努力をほめる」という科学的根拠に基づいた効果的なほめ方について、具体的な方法と教育的背景を詳しく解説します。
INDEX
結果主義のほめ方の落とし穴:非認知能力が育たない理由
「頭が良いね」「満点すごい」がもたらすもの
テストで良い点を取ったとき、「頭が良いね」「天才だ」とほめるのは、親として自然なことです。しかし、心理学の研究、特にスタンフォード大学のキャロル・S・ドゥエック教授による研究では、このような「能力を固定するほめ方(知能や才能をほめること)」が、子どもの成長を阻害する可能性があることが示されています。
失敗への恐れ
子どもは、次に良い結果を出せなかったら「頭が悪い」と思われるのではないかという不安を抱きます。これにより、難しい問題や新しい挑戦を避け、簡単な課題を選ぶようになります。
「失敗=能力不足」という認識
失敗した際に、「努力が足りなかった」ではなく「自分には能力がない」と結論づけやすくなります。これは、非認知能力の一つであるレジリエンス(立ち直る力)やグリット(やり抜く力)の芽を摘んでしまいます。
「硬直マインドセット(固定思考)」(Fixed Mindset)の形成
自分の能力は生まれつき決まっており、努力では変わらないと考えるようになります。
成長を促す「努力」と「プロセス」のほめ方:非認知能力を伸ばす基盤

「努力」や「プロセス」をほめる教育効果
一方で、「難しい問題を粘り強く解こうとしたね」「計画を立てて毎日勉強を続けられたのはすごいよ」といった「努力」や「プロセス」をほめる方法は、非認知能力の育成に極めて有効です。
これは、ドゥエック教授が提唱する「しなやかマインドセット(成長思考)」(Growth Mindset)を育むことに直結します。しなやかマインドセットとは、「自分の能力は、努力や経験、学習によっていくらでも伸ばすことができる」と信じる考え方です。
挑戦意欲の向上
努力を評価されると、子どもは「努力すれば結果は変わる」と認識します。失敗は「能力がないことの証明」ではなく、「さらなる成長のための課題」と捉えられるようになり、難しい課題にも積極的に挑戦するようになります。
グリット(やり抜く力)の育成
目標達成のために粘り強く取り組んだプロセスをほめることで、「苦労して頑張ること自体に価値がある」と学びます。これにより、困難に直面しても諦めずに継続する力が養われます。
自己効力感を育む
「自分は努力すればできる」という感覚(自己効力感)が高まり、これが自己肯定感の強固な基盤となります。
効果的な「ほめ方」実践テクニック
非認知能力を伸ばすほめ方は、単に「頑張ったね」と言うだけでなく、いくつかの具体的なテクニックを組み合わせることで、さらにその効果を高めることができます。
1. 具体的に描写する(行動の描写)
あいまいな言葉ではなく、どのような行動、努力、プロセスを評価しているのかを具体的に伝えます。
- NG例: 「すごいね。」
- OK例: 「算数の問題、昨日は解けなかったのに、今日、もう一度例題を読み直してから挑戦して、正解にたどり着いたね。粘って頑張ったことが結果につながったよ!」
- 効果: 子どもは、自分が取るべき価値ある行動(努力の仕方)を正確に理解できます。
2. 感情や気持ちを代弁する(感情の共有)
ほめるときに、子どもの感情や達成感を言葉にして共有します。
- OK例: 「この難しいパズルが完成して、すごく嬉しい気持ちになったんじゃないかな?諦めずに続けて良かったね。」
- 効果: ほめ言葉が感情と結びつき、ポジティブな経験として記憶に定着します。
3. 「自己修正」や「内省」を促す問いかけ
ほめ言葉に加えて、自己評価(内省)を促す質問を投げかけます。これは、子どもが自律的に学習を進めるメタ認知能力を育む上で非常に重要です。
- OK例: 「今回の自由研究、すごく手間がかかったと思うけど、一番難しかったところはどこだった?それをどう乗り越えたの?」
- 効果: 子どもは自身の行動と結果の因果関係を深く考えるようになり、次の学習・行動への活かし方を自分で見つけられるようになります。
非認知能力を伸ばすほめ方に関するQ&A

Q1. 「結果」を全くほめない方が良いのでしょうか?
A. いいえ、結果をほめること自体が悪いわけではありません。重要なのは「結果」と「努力・プロセス」のバランスです。結果をほめる際にも、必ず「その結果に至るまでの努力や工夫」に言及することが重要です。
例: 「目標の点数が取れて良かったね!特に、毎日寝る前に単語帳を10分やるという地道な努力が、この結果につながったと思うよ。」
Q2. ほめすぎて、自己肯定感が過剰になることはありませんか?
A. 効果的なほめ方、特に努力や具体的なプロセスを評価するほめ方は、過剰な自意識や傲慢さを生むことはほとんどありません。なぜなら、評価の基準が「自分自身の努力と成長」という内的なものに置かれているからです。過剰な自己肯定感(根拠のない自信)になりやすいのは、「君は特別だ」「才能がある」といった、能力を固定するほめ方です。
まとめ

非認知能力は、学力テストでは測れない、将来の幸福や成功に不可欠な力です。この能力を育むカギは、結果ではなく、そこに至るまでの「努力」「工夫」「継続」「成長」といったプロセスに目を向け、具体的にほめることです。
今日から、結果に一喜一憂するのではなく、お子さまが目標に向かって踏み出した小さな一歩や粘り強い姿勢に最大限の敬意を払い、温かい言葉をかけてみてください。その積み重ねが、お子さまのしなやかマインドセット(成長思考)を育み、困難を乗り越える確かな非認知能力を築き上げるでしょう。
参考文献
- キャロル・S・ドゥエック(2016年)『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社
- アンジェラ・ダックワース(2016年)『やり抜く力 GRIT(グリット)』ダイヤモンド社
- 中山 芳一(2020年)『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』東京書籍
- 西剛志 (著), アベナオミ (イラスト) (2025年)『脳科学的に正しい! 子どもの非認知能力を育てる17の習慣』あさ出版



