
現代社会において、子どもたちに求められる力は、単なる知識の量だけではありません。学力テストの点数では測れない「非認知能力」こそが、未来の成功を左右する重要な要素として注目されています。
その中でも特に、多くの成功者が共通して持っていると証明されている能力が、「GRIT(グリット):やり抜く力」です。
本記事では、GRITとは何か、そしてそれを育む上で欠かせない「マインドセット」との深い関係について、具体的なアプローチとともにお伝えします。
INDEX
GRIT(やり抜く力)とは何か?

「才能」よりも「努力の継続」が重要
GRITとは、心理学者アンジェラ・ダックワース博士が提唱した概念で、日本語では主に「やり抜く力」と訳されます。これは、「情熱」と「粘り強さ」をもって、長期的な目標の達成に向けて取り組む姿勢を指します。
ダックワース博士は、アメリカの陸軍士官学校や全米スペリング大会など、様々な分野での成功者を長期間にわたって調査しました。その結果、IQや才能といった先天的な要素よりも、「情熱」と「粘り強さ」を持って物事に取り組み続ける力、すなわちGRITこそが、長期的な成功を予測する上で最も強力な因子であることを突き止めました。
非認知能力としてのGRIT
GRITは、学力や知能指数(IQ)といった「認知能力」と対比される「非認知能力」の一つです。
非認知能力とは、目標に向かって頑張る力、人とうまく関わる力、感情をコントロールする力など、主に性格や意欲、態度に関わる能力を指します。GRITは、「目標達成に向けた一貫した情熱」と「困難に負けない粘り強さ」という、目標志向性の非認知能力の核となるものです。
成功するためには、モチベーションを保ち、失敗から立ち直り、長期的な目標を諦めずに追求し続ける姿勢が不可欠であり、これこそがGRITの真髄です。
GRITを支える「マインドセット」の力

「努力が実を結ぶ」と信じる力
GRITを発揮し続けるために、土台として欠かせないのが「マインドセット(考え方)」です。特に、スタンフォード大学の心理学者キャロル・S・ドゥエック博士が提唱した「しなやかマインドセット(成長思考)」が、GRITの育成に大きな役割を果たします。
マインドセットには、大きく分けて以下の2種類があります。
| マインドセットの種類 | 特徴 | 失敗や挑戦への反応 | GRITとの関係 |
| 硬直マインドセット(固定思考) (Fixed Mindset) | 知能や才能は固定的で変わらないと考える。 | 失敗を能力の限界と捉え、新しい挑戦を避ける。 | GRITを発揮しにくい。努力を無駄と考える。 |
| 「しなやかマインドセット(成長思考)」(Growth Mindset) | 知能や能力は努力や経験によって成長すると考える。 | 失敗を学びの機会と捉え、さらに努力を重ねる。 | GRITの原動力となる。粘り強さを生む。 |
「しなやかマインドセット(成長思考)」がGRITを駆動する
「しなやかマインドセット(成長思考)」を持つ人は、「今できなくても、努力を続ければ必ずできるようになる」と信じています。この信念こそが、困難に直面した際に「やっぱり自分には無理だ」と諦めてしまうことを防ぎ、粘り強さや回復力を継続的に発揮する、すなわちGRITを駆動するエンジンとなるのです。
子どもたちが「自分は頑張れば成長できるんだ」と感じられる教育環境こそが、GRITを育むための最初のステップとなります。
子どもたちのGRITとマインドセットを育む具体的な方法

それでは、子どもたちのGRITとしなやかマインドセット(成長思考)を育むために、今日から取り組める具体的な方法をご紹介します。
1. 「結果」ではなく「プロセス」を褒める
子どもが何かを達成したとき、例えばテストで良い点を取ったときや、スポーツで勝ったとき、多くの大人は「すごいね、頭がいいね!」と褒めます。しかし、これは「才能(固定的なもの)」を褒めてしまうため、硬直マインドセット(固定思考)を強化する可能性があります。
しなやかマインドセット(成長思考)を育むためには、結果に至るまでのプロセスや努力に焦点を当てて褒めましょう。
NG例: 「100点なんて、やっぱりあなたは頭が良いわね!」
OK例: 「難しい問題にも諦めずに取り組んだ努力が実ったね!」「毎日欠かさず練習したから、こんなに成長したんだね!」
2. 「失敗」を「学びの機会」として捉え直す
失敗は、GRITを試す最大の機会です。失敗したときに、子どもが自分を責めたり、自信を失ったりしないよう、大人が失敗への認識を変えてあげることが重要です。
- 「次はどうすればいい?」:失敗を責めるのではなく、「この失敗から、次に成功するために何を学べるか」を一緒に考えましょう。
- 「挑戦したこと」を称賛する:結果がどうあれ、「難しいことに挑戦した勇気」を評価しましょう。挑戦そのものが成長の証であると伝えるのです。
- 「未だ(Not Yet)」の力:「できなかった」ではなく、「今はまだ、できていない」という言葉を使わせることで、未来の可能性に目を向けさせます。
3. ロールモデルを示す
身近な大人や歴史上の人物など、GRITを持って目標を達成した人の具体的な事例を共有しましょう。成功の裏には、必ず地道な努力と失敗からの立ち直りがあったことを伝えることで、「努力の価値」を理解させることができます。
GRITとマインドセットに関するQ&A

Q1. GRITは生まれつきの才能ですか?
A. いいえ、GRITは生まれつきの才能ではなく、後天的に伸ばせる能力です。ダックワース博士の研究でも、環境や教育によって育まれる非認知能力であることが示されています。特に、本コラムで解説したしなやかマインドセット(成長思考)を身につけることで、誰もがGRITを高めることができます。
Q2. 子どもがすぐに諦めてしまうのはどうすればいいですか?
A. すぐに諦めるのは、失敗を「能力の限界」と捉える硬直マインドセット(固定思考)が原因かもしれません。まずは、非常に小さな成功体験を積み重ねられるように、目標を細分化してあげましょう。そして、結果ではなく、「5分間粘り強く頑張ったこと」など、「粘り強さ」そのものを褒めて、努力が自分を成長させていることを実感させてあげることが大切です。
まとめ:未来の成功は「やり抜く力」と「考え方」が握る
GRIT(やり抜く力)は、人生のあらゆる局面で成功を掴むために不可欠な非認知能力です。そして、そのGRITを支え、困難な状況でも諦めずに努力を継続するための土台となるのが、「自分は成長できる」と信じるしなやかマインドセット(成長思考)です。
小学生や中学生という多感な時期は、子どもたちのマインドセットが形成される重要なフェーズです。日々の言葉がけや接し方を通して、子どもたちの「やり抜く力」と自分は成長できると信じる力を育むことが、未来の成功者を生み出す鍵となるでしょう。
参考文献
- キャロル・S・ドゥエック(2016年)『マインドセット「やればできる!」の研究』草思社
- アンジェラ・ダックワース(2016年)『やり抜く力 GRIT(グリット)』ダイヤモンド社



