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お手伝いは “学び”の場
「子どもにお手伝いをさせたいけれど、時間がかかるからつい自分でやってしまう」——そんな声をよく耳にします。
しかし、お手伝いは単なる家事の手伝いではなく、子どもの非認知能力を育む絶好の機会です。非認知能力とは、学力テストでは測れない「意欲」「協調性」「忍耐力」「自己肯定感」「責任感」など、人生を豊かに生き抜く力のこと。近年の教育研究では、こうした力が将来の幸福度や学力にも影響することが明らかになっています。
なぜ「お手伝い」が非認知能力を伸ばすのか

お手伝いは、子どもにとって「社会の一員として役割を担う」体験です。
料理や掃除、ペットの世話などの中で、子どもは自分の行動が家族の役に立つ喜びを実感します。これにより、「自分も貢献できる」という自己効力感や自己肯定感が高まり、挑戦への意欲が生まれます。
さらに、お手伝いを通して次のような非認知能力が自然に育まれます。
| 育まれる非認知能力 | 具体的な場面 |
| 責任感 | 夕食の準備やペットのエサやりを任せる |
| 忍耐力・集中力 | 床拭きや洗い物を根気強く続ける |
| 協調性・コミュニケーション力 | 家族と役割分担しながら作業する |
| 自己肯定感 | 「ありがとう」「助かったよ」と感謝される経験 |
| 問題解決力 | 失敗しても工夫してやり遂げる |
研究では、忍耐力が高い幼児ほど認知能力(知能指数)も高い傾向があると報告されています。つまり、お手伝いによって粘り強く取り組む力を養うことは、学力の土台を育てることにもつながるのです。

習慣化のコツ①:「やらせる」ではなく「任せる」
お手伝いを“習慣”にするうえで大切なのは、親が「やらせる」のではなく「任せる」姿勢を持つことです。
たとえば、テーブル拭きや洗濯物たたみなど、小さな作業から始めましょう。
多少時間がかかっても「ありがとう、助かったよ」と伝えることで、子どもは自分の行動に価値を感じ、次への意欲が生まれます。
また、「失敗を学びの過程と捉える姿勢」を家庭でも取り入れることも大切です。完璧さよりも「試行錯誤の経験」を重ねることこそ、子どもの成長の糧となります。
習慣化のコツ②:年齢に応じたお手伝いを
お手伝いの内容は、年齢や発達段階に合わせることがポイントです。
無理のない範囲で「自分でもできた!」という成功体験を積み重ねることで、達成感とともに非認知能力が伸びていきます。
| 年齢 | お手伝いの例 | 育まれる力 |
| 3〜4歳 | 洗濯物を運ぶ、食器を並べる | 協調性・責任感 |
| 5〜6歳 | 洗濯物をたたむ、野菜をちぎる | 集中力・自己効力感 |
| 小学低学年 | 掃除機をかける、ゴミを分別する | 忍耐力・整理整頓力 |
| 小学高学年 | 料理の下ごしらえ、ペットの世話 | 責任感・粘り強さ |
習慣化のコツ③:一緒にふり返る「対話時間」を設ける
お手伝いの後に「どうだった?」「どこが難しかった?」と声をかけることで、メタ認知能力(自分の行動を客観的に捉える力)が育ちます。メタ認知の高い児童ほど学力テストの成績が高い傾向にあることが示されています。
この「ふり返りの時間」は、単に家事を終えるだけでなく、子どもが自分の成長を実感する重要なステップです。
習慣化のコツ④:「努力の過程」をほめる
「すごいね、上手にできた!」ではなく、「最後まで頑張ったね」「工夫したね」と過程をほめることが、やり抜く力(GRIT)を育てます。児童が「目標設定」「挑戦」「ふり返り」を繰り返すことでGRIT(やり抜く力)が向上したという事例もあります。
お手伝いも同様に、結果よりも「続ける努力」を認めることが、非認知能力の伸長につながります。
習慣化のコツ⑤:「家族全体で共有する」
「家族の一員として自分の役割がある」と感じられることは、子どもの社会的スキルの発達に直結します。
特に、兄弟姉妹や祖父母など複数の世代が関わると、協調性や思いやり、自己表現力がさらに育まれます。
お手伝いを“家庭の共通プロジェクト”として位置づけると、子どもは「自分も大切な存在だ」と実感できるのです。
まとめ:日常の中に“非認知能力の教室”をつくろう

お手伝いは、特別な教材や時間を必要としません。
「家庭」という最も身近な環境で、子どもは協調性・忍耐力・自己肯定感・責任感を自然に育てることができます。
そして、それらは将来の学力や社会的成功の土台にもなる力です。
今日から少しずつ、「任せてみる」「待ってみる」「感謝を伝える」——その繰り返しが、子どもの非認知能力を確実に伸ばす第一歩になるでしょう。
参考文献
- アンジェラ・ダックワース(2016年)『やり抜く力 GRIT(グリット)』ダイヤモンド社
- 西剛志 (著), アベナオミ (イラスト) (2025年)『脳科学的に正しい! 子どもの非認知能力を育てる17の習慣』あさ出版
- 杉浦ひなのほか(2021年)『幼児の認知能力と非認知特性の関連』
- 横浜市教育委員会委託調査(2023年)「認知・非認知能力調査研究」報告書概要版
- 佐藤美穂・芝山明義(2024)『小学校におけるGRITを高める実践とその可能性の展望』



