
「これからの時代、偏差値だけでは測れない力が重要になる」
昨今、教育現場やメディアでこのような言葉を耳にする機会が増えました。
特に受験を控えたお子さまを持つ保護者の方にとって、志望校合格に向けた「学力(認知能力)」の向上は最優先事項でしょう。しかし同時に、「社会に出てから通用する人間性」や「困難を乗り越える力」をどう育むべきか、悩まれている方も多いのではないでしょうか。
最新の調査でも、「受験の成功」と「非認知能力」には密接な関係があることが明らかになりました。
今回は、株式会社イー・ラーニング研究所が実施した「受験期における“非認知能力”の重要性に関する意識調査」※の結果を紐解きながら、受験期こそ育てたい「非認知能力」の重要性と、家庭でできる具体的な取り組みについて詳しく解説します。
※2025年9月に株式会社イー・ラーニング研究所が実施した、子どもがいる親世代が対象の「受験期における“非認知能力”の重要性に関する意識調査」
INDEX
変化する入試形態:「人物重視」へのシフト

かつての入試といえば、筆記試験の点数で合否が決まる「一般入試」が主流でした。しかし現在、その潮流は大きく変わりつつあります。
親の半数が注目する「AO・推薦入試」
アンケート結果によると、「AO入試(現在の総合型選抜)」や「推薦入試(学校推薦型選抜)」といった人物重視の入試形態に子どもを「挑戦させたい」と回答した親が約半数にのぼることが分かりました。

イー・ラーニング研究所調べ
これは単に「合格のチャンスを広げたい」という理由だけではありません。多くの保護者が、これからの社会で求められるのは、ペーパーテストの点数だけではないことを肌で感じている証拠と言えるでしょう。
求められるのは「コミュニケーション力」と「協調性」
では、こうした新しい入試形態や、その先の社会で重視される能力とは何でしょうか。 調査では、親が考える受験で重要な能力として、以下の2つが上位に挙げられました。
- コミュニケーション力(7割強で最多)
- 協調性


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これらはまさに、「非認知能力」の中核をなす要素です。
非認知能力とは?
IQ(知能指数)や学力テストの点数、偏差値などで数値化できる「認知能力」に対し、数値化しにくい内面的なスキルのこと。 具体的には、「意欲」「忍耐力」「自制心」「メタ認知」「コミュニケーション能力」「協調性」「回復力(レジリエンス)」などを指します。2000年にノーベル経済学賞を受賞したヘックマン教授の研究により、将来の成功や幸福感に大きく影響することが示され、世界中で注目されています。
大学入試改革以降、大学側も「主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」を評価基準として明確に掲げています。つまり、非認知能力を高めることは、現代の受験戦略において「必須」といっても過言ではないのです。
誤解していませんか?「非認知能力」と「学力」の相関関係
「非認知能力が大切なのはわかるけれど、まずは目の前の成績(認知能力)を上げないと……」 そう考える保護者の方もいらっしゃるかもしれません。しかし、この2つは対立するものではなく、むしろ車の「両輪」のような関係にあります。
約6割の親が実感「非認知能力は学力向上に効く」
調査結果において注目すべきは、「非認知能力は学力向上に強く影響している」と考える親が約6割に達したという事実です。

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なぜ、非認知能力が高いと学力が上がるのでしょうか? そのメカニズムを、いくつかの教育心理学的な観点から解説します。
GRIT(やり抜く力)と学習継続
勉強は、常に楽しいものではありません。解けない問題に直面したとき、すぐに諦めてしまうか、「もう少し頑張ってみよう」と粘れるか。この差を生むのが「GRIT(グリット):やり抜く力」と呼ばれる非認知能力です。粘り強さがある子は、結果として学習時間が確保され、成績が向上します。
自制心(セルフコントロール)と誘惑
スマホやゲームなど、受験生には誘惑がいっぱいです。「今は遊ぶのを我慢して、課題を終わらせよう」と自分を律する「自制心」も、非認知能力の一つです。
自己効力感と挑戦
「自分ならできる」「努力すれば結果が出る」と信じられる力(自己効力感)が高い子は、高い目標(志望校)に対して前向きに挑戦し続けることができます。
つまり、非認知能力という「土台」がしっかりしているからこそ、その上に「学力」という建物が高く積み上がるのです。
家庭でできる! 受験に活かせる「非認知能力」の育み方
では、この重要な能力をどのように家庭で育めばよいのでしょうか。 調査では、非認知能力を高めるために家庭で最も意識していることとして、「家庭内でのコミュニケーション」が第1位(約6割)となりました。

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「成果」ではなく「プロセス」を共有する対話
受験期の子どもに対し、親はつい「模試の結果はどうだった?」「偏差値は上がった?」と、数字(結果)ばかりを聞いてしまいがちです。 しかし、非認知能力を育むコミュニケーションの鍵は、「プロセス(過程)」への着目にあります。
今回の調査でも、「約6割の子どもが努力や粘り強さで成果を上げた経験がある」ことが判明しています。

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子どもが机に向かっている姿勢、苦手な科目に逃げずに取り組んだ事実、前回よりケアレスミスを減らそうと工夫した点。これらを見逃さず、言葉にして伝えることが重要です。
- NGワード:「なんでこんな点数なの?」「もっと頑張りなさい」
- OKワード:「苦手なところにもチャレンジした姿、見ていたよ」「この問題、解き方を工夫したんだね」
このように、努力や粘り強さ(非認知能力)を承認することで、子どもは「自分の頑張りを見てくれている」という安心感を得ます。この安心感が「心理的安全性」となり、さらなる挑戦へのエネルギーとなるのです。
「失敗」を「学び」に変えるレジリエンス
受験勉強の中で、模試の判定が悪かったり、過去問が解けなかったりすることは日常茶飯事です。このとき、落ち込んだままにするのではなく、「どこが弱点か分かってよかったね」「ここを復習すれば伸びるよ」と声をかけること。 これが、困難から立ち直る力「レジリエンス(回復力)」を育てます。
親御さん自身が、結果に一喜一憂しすぎず、どっしりと構えて子どもの「努力の過程」に伴走することが、最強の受験対策となるのです。
ゴールは合格だけではない。9割が期待する「将来への価値」

受験は、子どもの人生における大きなイベントですが、決してゴールではありません。 調査結果の最後にある、「約9割の親が、非認知能力は受験だけでなく社会で生きていくうえでも役立つと期待している」というデータは、非常に示唆に富んでいます。

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AI時代にこそ輝く人間力
これからの社会は、AI(人工知能)の進化により、単純な知識の記憶や計算処理は機械に取って代わられると言われています。しかし、正解のない問いに対して仲間と協力して挑む力、相手の感情を理解してコミュニケーションをとる力、そして何度失敗しても諦めずに新しい価値を創造する力は、AIには代替できません。
受験勉強というハードな経験を通じて、子どもたちは単に英単語や数式を覚えるだけでなく、「目標に向かって計画を立てる力(実行機能)」や「自分を信じてやり抜く力(自己肯定感・GRIT)」を身につけています。
これらこそが、変化の激しい未来(VUCA時代)を生き抜くための、一生モノの武器になるのです。
まとめ:非認知能力は、子どもの「未来」を拓く鍵
今記事では、最新の調査データを基に、受験と非認知能力の関係性について解説しました。
- 入試トレンド: 人物重視の入試が増え、コミュニケーション力や協調性が合否の鍵を握るようになっている。
- 学力との相乗効果: 非認知能力(やり抜く力、自制心など)は、学力向上の強力なエンジンとなる。
- 家庭の役割: 結果だけでなく「努力のプロセス」を認めるコミュニケーションが、子どもの力を伸ばす。
- 長期的視点: 受験を通じて培った非認知能力は、社会に出てからも役立つ一生の財産になる。
「受験勉強か、人間力育成か」と二者択一で考える必要はありません。 非認知能力を育てることこそが、志望校合格への近道であり、その後の人生を豊かにする最善の投資なのです。
家庭でも非認知能力の重要性を理解し、日々の声掛けを少し変えるだけで、子どもの目の色は変わります。ぜひ今日から、お子さまの「見えない力(非認知能力)」に目を向け、その成長を言葉にして伝えてあげてください。
参考文献
- 株式会社イー・ラーニング研究所(2025/9)「受験期における“非認知能力”の重要性に関する意識調査」
- ジェームズ・J・ヘックマン(2015/6)「幼児教育の経済学」



